ICON 勝負は負けを見て判断する

「情けの街のふれ太鼓」 / 第二十六代・式守伊之助(二見書房)


 ハワイはオアフ島ワイキキプリンスホテルのプールサイドに1人の男がロングチェアーに座り熱い陽射しを浴びていた1冊の本を手にしている私である心地良い風が暑さを感じさせないウーム決まっているなただし読んでる本を除けばだここで軽くアガサ・クリスティーかR・ベイカーの「男のコラム」などを読んでいればよかった私が読んでいたのは行司ひとすじ50年式守伊之助さんの『情けの街のふれ太鼓』
 「何の本、よんでるの?」と言う声と同時に知り合いの女性レポーターが近づいて来たムムまずいいかにも場ちがいの本だハワイが情けの街であるはずがない聞かれた事に答えないのも大人げない「これなんだけどね」と見せると案の定笑われたウルセイ! どこへ行こうと俺は日本人だそもそもこのハワイの旅は大相撲ハワイ場所に強烈なラブコールを送って番組絡みで連れて来てもらった大好きなお相撲さんと一緒にいられるだけでなくハワイに行けるこれを逃す手はない幕下までの全力士の名前を知っているという触れ込みで押し切った実際は幕内しか知らないのだが決まってしまえばこっちのもの若貴と個人的お話し小錦のでかい尻旭道山のゴルフスタイルはただの魚屋のオッサン元黒姫山の親方の気さくさ大翔山の赤ちゃんのような笑顔実に関取連中は無邪気だああ〜自慢したい若乃花と若翔洋と一緒に写真なんか撮っちゃっているんだから
 いかんいかん行司さんを忘れては相撲は行司さんあっての形式美場ちがいな所で読んで笑われたが内容は実に真摯で誰にも笑われる筋のものではない第26代式守伊之助さんの人生戦前戦中戦後の相撲界の変遷を綴ったものだが人柄の良さが滲み出る感謝感謝で自分が立行司にまでなれた事を回想する立行司といえば関取にたとえたら横綱木村庄之肋と2人しかいないのだ相撲界での扱いも王様もう少し天狗になってもよさそうだが妻に親方に巡業先で感謝する裏を支える行司の鑑みたいな人だ縦社会で生きる基本なのだろうが嫌味がない芸能界とはえらい違いだ勝負は負けを見て判断するとは納得させられた我々ファンは勝者を見ているが行司さんは負け方を見ている負けをみて軍配を上げる弱者をみることで人間の優しさやら感謝を形作っていくのだろうか
 読み終えて少年期に町の電気屋さんで見た栃錦若乃花戦の興奮を思いだしそれがなぜかすがすがしい記憶に変化している自分に気づいたそれは伊之肋さんのおかげです心より感謝します

( 協力 / 桃園書房・小説CULB '93年9月号掲載)

BACK BOOKPAGE GO BOOKINDEX NEXT BOOKPAGE
|BACK| きのう読んだ本はこんな本インデックス| NEXT|

“きのう読んだ本はこんな本”では、みなさまのご意見やご感想をお待ちしています
メールのあて先はこちらまで。


GO HOME つぶやき貝 デジカメアイランド 孤独の壷 マルクスラジオ プロジェクト yellows 今日もはやく帰りたい
|ホームインデックス| つぶやき貝| デジカメアイランド| 孤独の壷| マルクスラジオ| YELLOW PROJECTS| PINKY YELLOWS| 今日もはやく帰りたい|